「無人島に生きる十六人」(須川邦彦)

これぞ十六中年漂流記!

「無人島に生きる十六人」(須川邦彦)
 新潮文庫

明治三十一年十二月二十八日に
日本を出帆し、
同三十二年五月に
ミッドウェー島付近の
パール・エンド・ハーミーズ礁で
難破した龍睡丸
(76t・スクーナー型帆船)。
乗組員十六人は
無人島に流れ着く。
だがそこには
水も食料もなかった…。

この十年、毎年といっていいほど
再読している本があります。
本書です。
疲れた体と心に、
漲る活力と爽やかな感動を
与えてくれます。

何とも濃厚な漂流記です。
何せ実際に起きた漂流事件の
記録なのですから。
漂流記といえば
デフォーの「ロビンソン漂流記」が
古典的名作です。
児童向けについてはヴェルヌ
「十五少年漂流記」でしょうか。
この二作が大横綱と言えるでしょう。
でも、その二作に勝るとも劣らない、
いや、絶対に勝っていると思われる
傑作が日本に存在していたなんて。

本漂流記の特筆すべき点の一つ目。
文体も軽快で、
登場人物もきわめてポジティヴ、
明るく前向きな漂流記なのです。
水や食料がなくてもくじけません。
塩辛い水を飲んでおなかを壊しても
落ち込みません。
やはり人間明るくなくてはなりません。
何かと些細なことで萎れてしまう
現代中学生には、
ぜひ読ませて見習わせたいものです。

特筆すべき点の二つ目。
十六人の船乗り集団の
一糸乱れぬ組織力と、
それを統べる
人望厚い船長の統率力です。
どんな危機が訪れようとも
仲間と共に乗り越える。
一人でできないことも
みんなであたれば乗り越えられる。
そうです、集団になったときの
高いポテンシャル。
チーム・ジャパンここにあり。
何かと屁理屈つけて
個人の我が儘を通そうとする
現代中学生には、
ぜひ読ませて見習わせたいものです。

特筆すべき点の三つ目。
どんな経験をも無駄にせず、
学習を積み重ねようとする姿勢です。
無人島での耐乏生活中、
帆布の巻物にランプの油煙のインクと
海鳥の羽のペンで
せっせと学習に励みます。
救出されたあとのことまで見通して
頑張っているのです。
スマホやゲームにうつつを抜かして
学習から逃げまくっている
現代中学生には、
ぜひ読ませて見習わせたいものです。

と、現代中学生に
当てつけるようなことばかり
書きましたが、
本書に書かれてある十六人の姿こそ
「おじさん」の真の力ある姿なのです。
本書はいわば十六中年漂流記。
十五少年よりも
明るく仲良く勤勉な十六中年の姿を、
ぜひ現代を生きる中学校1年生に
薦めたいと思う次第です。

(2020.4.7)

analogicusによるPixabayからの画像

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